スズキは24日、6月開催の定時株主総会で鈴木修会長(91)が退任すると発表した。取締役からも退き、相談役となり代表権も返上する。後任の会長職は置かない。1978(昭和53)年の社長就任以降、40年以上経営トップを務め、インド進出やトヨタ自動車との資本提携などを推進。スズキを、世界的な自動車メーカーに成長させた。
鈴木修会長は銀行員を経て、1958年に鈴木自動車工業(現スズキ)に入社。2代目社長の娘婿になり、78年には社長に就任した。強力なリーダーシップを発揮し、80年代にはインドへの進出をいち早く決断。「軽のスズキ」の地位を確立した。一部にはホンダも日産も軽自動車を販売しているが、大半はダイハツとスズキに収斂される。
新スズキこの先2025年までに、電気自動車(EV)などの電動化技術を確立し、25年から電動化製品を全面展開する方針も打ち出した。また26年3月期連結売上高の目標は4兆8千億円とし、5年間で1兆円規模の研究開発費を投じる方針を示した。『軽自動車』を商品として、税制優遇や燃費の良さを売りとして、40年以上にわたり経営トップを担ったカリスマがついに一線を退く。
カリスマは、徹底的な現場主義や先手先手の決断で、唯一無二の存在感を放った。修会長は1978に社長に就任、現場に足を運び「小さく・少なく・軽く・短く・美しく」という会社のモットーを徹底させ、製造方法の無駄を省いた。他社に先駆けて進出したインド市場では、同地で圧倒的な地位を築き、社長就任時に3千億円強だった売上高は、3兆円規模に拡大した。
2016年には環境対応などを念頭に、トヨタ自動車との提携に道筋を付けた。スズキが生き残るために、先見の明を持って決断を下した。菅政権は2035年までに新車販売からガソリン車を撤廃する方針。しかし電動化によって、軽自動車の魅力である価格の安さが失われる恐れがある。鈴木俊宏社長は、価格面の競争力を維持した上で「電動化技術を早急に確立する」と語った。そのための1兆円投資である。
もう何年か前に、スズキの工場見学に出向いたことがあります。生産ラインの工夫には、説明を聞けば聞くほど感心したモノだ。これがカリスマの爪痕かと、見れば見るほど驚いた。こんな創意工夫の現場から、あの「小さく・少なく・軽く・短く・美しく」という会社のモットーをカタチにした軽自動車が世に出てきたのだろう。しかしその価格、120~130万円というのには違和感を覚えた。
高級志向が、会社のモットーを歪めているのではないか。私の感覚がもはや古いのかもしれないが、軽自動車の本体価格は100万円以内。登録費を合算して、120万円程度だろう。確かに今のスズキの商品は、テレビCMの通りお洒落だ。これが電動自動車の誕生に、どう影響するか。
100万円では電動車は作れないが、150万円ならどうにか消費者にアピールできるクルマが出来るのか。
カリスマの引退、スズキの益々の繁栄をもたらすか、これを機に衰退の道を歩むか。人ごとのように考えている私の身の回りにも、はたして同じことが起こってはいまいか。この先今まで経験したこともない、歴史書にも書かれていない事象が出てくるだろう。知恵と技で、乗り越えないと終末を迎える。