菅政権は緊急事態宣言の拡大を受けて、『ビジネストラック」、「レジデンストラック」による外国人の入国を停止した。この問題であるが、本来、緊急事態宣言の発令に伴い行われる予定であった停止処置が、菅総理の強い要望で行われなかった経緯がある。自民党の外交防衛部会では、以前より、外国人の入国緩和に関して否定的な意見を出し続けており、新型コロナウィルスの感染拡大に伴いこれを強化すべきという意見が大勢を占めていた。
また、変異種発生に伴いこれは強い意見に変化した。そして、ビジネストラック、レジデンストラックの停止、廃止をすべきという部会の意見は、政調会に掛けられ、政調会の意見として決議された。しかし、総務会では、これが決議されず、党としての最終意見にはなっていなかったのである。菅義偉首相が、緊急事態宣言を出し渋りしていたのはこのような背景もあった。
近年、特に菅政権誕生以降、これまでのルールが無視されるケースが多発しており、これが若手を中心とした議員たちの間で大きな不満の種になっていた。その典型が習近平国賓来日反対の提言書であり、政調会まで通ったものが、二階幹事長などの反対で総務会で承認されなかったわけだ。しかし、その提言は政調会の意見として、官邸に届けられた経緯がある。今回もこれと同じことが起きたといえる。
そもそも菅総理が誕生したのは、二階幹事長が立候補を勧め支持したからと言われているがそればかりではなく、安倍政権の政策の継承を前提に、細田、麻生、竹下の主要三派と石原派がそれに賛同したからであり、それなくしては、総理になれなかったわけだ。支持を表明した後に、これまでの歴史にない主要三派合同の記者会見が開かれた理由には、二階氏の言いなりにならぬように釘をさす意味があったといわれている。
この菅政権の強気の政策の前提には、高い支持率(当初60%超え)を得たことによる自信があったとされるが、それはアベノミクス継承に対する評価でしかなく、菅総理が直接的な支持を得たからではない。仮病で引退する安倍晋三首相の政治を、そっくりそのまま踏襲する後継の一番手として、菅政権が誕生したのだ。それなのに、コロナの感染拡大で後手後手に回っている対応に批判が集まり、支持が不支持を下回る現在の状況に陥っているといえる。
派閥政治を否定し、自ら派閥に属しない『無派閥』の姿勢を崩さない菅義偉首相、新しい政治体制を作り始めたと思われたが、最大の強み無派閥がここへ来て揺らいでいる。派閥政治の復活、何かイメージだけで批判される派閥政治であるが、野党がまともな政策立案機能を持たない中で、自民党内の派閥は一種の政党としての機能を強めている。
二階派は47人特別会員+3人の勢力であるが、その多くは幹事長預かりでしかなく、本質的な勢力としては30人程度しかいない。完全な少数派であるが、二階氏が『幹事長』という強権を発動することでその影響力を高めている形、しかし、それが多数派の大きな不満となり、動かない政治を生み出しているともいえる。
現在のところ、今回の一連の動きは菅下ろしではなく、二階下ろしであり、菅総理に対して二階氏を切り捨て、党内の多数派意見を尊重するように求める動きである。しかし、菅総理がこれを無視した場合、それが直接的な菅下ろしに発展する可能性も高いといえる。