東京電力福島第一原子力発電所で、汚染水浄化で残る放射性物質『トリチウム』を含んだ処理水の処分に関し、政府が海洋放出を決定する方針を固めたことが16日、関係者への取材で分かったと新聞が報道している。『ついに』という思いがよぎる。増え続ける処理水の扱いに関する議論が、2013年に始まってから7年。その間、風評被害の懸念を訴え続けてきた漁業者らの反発は必至だ。
海洋放出という長年の懸案が動き出した背景には、菅政権の基本姿勢がある。安倍政権では、原発関連のエネルギー政策は不人気政策と警戒し、問題解決を積極的に進めてこなかった。多くの課題を、無責任に先送りしたわけだ。菅義偉首相は自身の内閣を、「国民のために働く内閣」と称しており、懸案の早期処理を目指す方針だ。首相が信頼する梶山弘志氏を経済産業相に据えたのは、処理水などの積み残し案件が経産省の所管だから。
15年度に、1日平均490トンだった汚染水の発生量は地下水をくみ上げ、流入を阻止する壁を地下に作るなどした効果で減っているが、今も1日180トン(19年度)に上る。東電は、汚染水から主要な放射性物質を取り除いた処理水を、敷地内タンクに保管し続けている。タンク約1,000基に、123万トン(9月17日時点)がたまっている。20年度中に東電は計137万トン分のタンクを確保するが、22年10月にも満杯になる見通しだ。
タンクの増設余地は少なく、放出設備の設計や規制手続きにかかる準備期間2年を考慮すれば、ぎりぎりのタイミングでの決定と言える。処理水には、除去が難しい放射性物質『トリチウム』が含まれる。仮に福島第一の処理水に含まれるトリチウムを1年で海に流しても、周辺住民の年間被曝線量は自然界から受ける線量の1,000分の1未満にとどまるという。国際原子力機関(IAEA)も、海洋放出について「技術的に実行可能で国際的慣例にも沿っている」との見解を示す。
ただ事故原発の水を海に流すという印象が強くなれば、風評被害の発生が懸念される。韓国などは、『危険性』をオーバーに喧伝することだろう。福島県の漁業関係者は現在も風評被害に苦しんでおり、19年の沿岸漁業の水揚げは原発事故前の約14%にとどまる。放出開始後に、風評被害が出た場合の政府補償を、手厚くするしか方法はないだろう。
2011年3月11日発生した東日本大震災からまもなく10年となるが、東京電力福島第一原子力発電所が起こした甚大な事故の影響は、処理水の問題にとどまらず幅広い範囲で未解決のまま残る。溶融燃料の取り出しも、2021年に2号機から開始される。汚染土などの移転候補地は見つからず、なお4万3千人の避難者がいる。福島県7市町村336平方キロメートルが、避難困難区域のままで、対象住民は約2万2千人。
今すぐ国内原発の稼働中止を声高に叫ぶ人らもいるが、現実問題として、止めるのはまず『石炭火力発電』など大気汚染を引き起こす恐れのあるエネルギー政策だろう。原発はなくする方向で良いが、今すぐ全炉停止では経済が立ちいかない。新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、経済が瀕死の常態であるが、それでも工夫をしながら改善策を模索しているのとよく似ている。もともと何もない国、知恵を出そうよ日本人。