最近の小欄で、頻繁に紹介している作家・経済評論家渡邊哲也氏の最近作です。この類いの本は、「コロナ前」か「コロナ後」かで、中身が変わる。先に確認しておくが、この本は2019年12月に脱稿され、翌1月に上梓されたモノです。新型コロナウィルスの感染拡大が問題になる前の段階での、渡邊哲也氏の考えであります。しかしそれでいて、妙にコロナ後も言い当てている。
2020年はこれまでにないほど、世界情勢が動くのは間違いない。秋には、アメリカ大統領選も控える。東京五輪・パラリンピックに浮かれている場合ではない。本書を読了すれば、その理由が明確に理解できるだろう。テレビや新聞からの情報に触れて、世界と日本経済の情勢を分かった気になっていないだろうか?その思い込みこそ、最大のリスクだ。
グローバリズムを一言で説明すれば、「ヒト・モノ・カネ」の移動の自由化である。1990年代の冷戦終結以降、グローバリズムという潮流が続いて来たが、2017年1月のトランプ大統領就任を機に潮目が変わった。アメリカにとどまらず、台湾での民進党政権の誕生、イギリスのBREXIT(ブレグジット)の問題など一気にナショナリズムの動きが拡大し、その反射的効果としてグローバリズムの否定が始まった。
その大きな流れのなかで、「グローバルサプライチェーン」という名の世界的分業体制が大きく変わろうとしている。この従来型のグローバルサプライチェーンの特徴の一つに、設計と製造をそれぞれ異なる国が請け負っている。設計基礎研究は、アメリカを中心とした先進国が行い、製造組み立ては韓国や台湾・中国という新興国に分けている。
このようなシステムが勃興しているさなか、アメリカ議会は2018年に、5年以内に中国製通信機器を国内から完全に排除して、アメリカおよび同盟国から調達し、最終的に完成できる体制を目指して「米国国防権限法(NDAA)」成立させた。
これにより、アメリカの政府機関は、「特定5社を含む中国企業製の通信・監視関連の機器・サービスを利用している機器・システム・サービス」の購入・取得・利用が禁止されるうえ、こうした機器・システム・サービス利用している企業との契約・取引も広範に禁じられることになった。
ちなみに特定5社とは、ファーウェイ(華為技術)・ZTE(中興通訊)・ハイテラ(海能達通信)・ハイクビジョン(海康威視数字技術)・ダーファ(大華)を指す。通信を征するものが、戦争に勝つ。軍事的な衝突が起きる場合、「通信の衝突」が端緒になるのはいつの時代も同じこと。第2次大戦で、日本軍の暗号がアメリカ軍に解読されていたのはよく知られたことだ。
アメリカが「天網」に関係する中国8社を、「エンティティ・リスト(ET)」に登録した。ETとは、外交政策上、安全保障上の理由で、アメリカにとって貿易取引するには好ましくないと判断された団体・個人が登録されたリスト。2019年、中国の携帯電話・通信機器メーカーのファーウェイと、日本支社などを含む関連会社約70社が登録された。10月には、天網に関わる8社とそれに関連する機関が追加された。
これにより、中国監視カメラ大手2社が、アメリカ原産技術25%以上の製品を利用できなくなった。同時に日本も再輸出規制がかかるため、アメリカ原産技術25%以上を含んだ技術の輸出が出来ない。ヒトへの技術提供も禁止されているため、アメリカ原産技術を使った研究や技術開発からも、指定された会社を排除する必要がある。
あまり長く書くと嫌われるので、後は宮脇書店で購入して下さい。1,300円税抜きであります。渡邊哲也氏の本に共通するのは、「アメリカ」か「中国」のどちらとビジネスをしていくのかという選択で、実に多くの示唆に富んでいる。一般的には、安全保障関係はアメリカと、商売は12億人の人口を抱える中国と、両足に軸足を降ろしてやっていくという経営者論が常識だが、それは出来ませんと断言している。ここだ。