2020,09,06, Sunday
前回の②前々回の①に書いた通り、安倍晋三首相の外交と安全保障では、後世に評価されるべき成果を上げたと思う。その中でも特筆されるのは、民主党の鳩山政権で傷ついた日米同盟を立て直し、強めたことだ。オバマ大統領との関係が絶好調になったその頃、2016年11月8日ドナルド・ジョン・トランプの大統領の当選を受けて直ちに訪米したのは『あっぱれ』だった。娘婿クシュナーと、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)絡みで、安倍晋三首相にトランプ氏が会った。もちろん大統領就任前のことだった。
側近らによると、在任中、安倍晋三首相が抱き続けてきたのは「日米同盟をもっと強めないと、日本の安定は保てない」という懸念だという。その事もあってか、安倍政権は『安全保障関連法』を定め、2016年3月に施行した。これにより日本は、米軍を支援するために、限定的ながら集団的自衛権を行使できるようになった。 トランプ大統領はつね日頃、「米国が日本を守るのに、日本が米国を守らないのは不公平だ」とも公言する。日本からの『思いやり予算』をもっと増やせという。「今は全駐留費の75%を日本が支払っている」と聞いて、トランプ大統領は驚いたとも言われているが、乱暴なトランプ節に過ぎず、真に受けなくても良いと考えるのは大間違いだと、最近何冊かの本を読んで私も反省した。 第一、米国は『世界の警察』ではないと宣言したのは、オバマ前大統領(民主党)であって、トランプ大統領(共和党)ではない。米大統領選で民主党のバイデン候補(民主党)が勝ったとしても、流れは変わらないだろう。背景には、「アメリカ議会」がついている。現職のトランプ大統領の言動に、アメリカ議会がお墨付きを与えている。『台湾旅行法』など法案で、アメリカの行く方向を指し示している。 安倍政権では防衛予算の減少にも歯止めをかけ、13~20年度に続けて増やし、自衛隊の能力を高めた。さらに2014年1月に『国家安全保障局』も設け、対外政策を素早く調整し、決められる体制をつくった。自衛隊内にも最近誕生した「サイバー対策室」、菅義偉官房長官は、省庁横断でデジタル化を進める権限を持つ「デジタル庁」を新設するという。 2001年の9.11事件勃発以降、アメリカは「対テロ戦争」の名目でアフガニスタンやイラクといった中東地域に軍事的に介入してきた。米国は約20年間、国内では空前の格差と分断に苦しむ。他国を守るより、まず国内再建だとの空気は米世論にも広がっている。世論調査では、アジア駐留軍を減らすべきだという人々が57.6%にのぼった。新型コロナウィルスによる被害が広がるなか、この傾向は更に強まっているだろう。 安倍晋三首相は日本がもっと防衛力を強める努力を尽くさなければ、米有権者はいずれ、日本の防衛義務を負うことに納得しなくなると考えた。日本がより多くの役割を担わないと、同盟があっても安定を保つのは難しい。新しいミサイル防衛網のあり方や自衛隊に反撃力を持たせる議論など、米側と直ちに擦り合わせる課題は沢山ある。 米国防総省は9月1日に発表した報告書で、中国海軍の水上艦・潜水艦は350隻に達し、米軍の293隻を抜いて「世界最大」になったことを認めた。中国は、地上配備の中距離ミサイルを千数百発に増やしたとされるが、米国はゼロだ。世論を二分し、支持率を下げてまで安倍晋三首相が『安保法』を制定したのは、このままでは将来、日米同盟が弱体化するか、瓦解しかねないと恐れたからだ。 むろん経済協力と対話を深め、中国とも安定した関係を築くことも大切だとして、安倍政権は17年以降、習近平国家主席の広域経済圏構想「一帯一路」に、条件付きで支持を表明。今年は習近平国家主席を、国賓で日本へ招くはずだった。コロナ禍が日本を救ったと観るべきかもしれない。その証拠に中国に尽くしても、中国による尖閣諸島への挑発や東・南シナ海での軍拡は続いている。 日本経済新聞9月5日(土)「安倍氏、恐れた同盟の悪夢」参照 |