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2003/11/24

うれしいこの頃

 不動産の仲介業(法的には媒介と言います)を初めて、はや20年が過ぎました。義父の「親孝行せんか」の言葉ではじまった松野不動産株式会社ですが、開業当時は、「口入師くにゅうし」とさげすまされたことがあります。ただの口利き家業でないかという意味だと思います。バブル経済真っ盛りの頃も、ひたすら仲介に徹していました。儲けもほどほどですが、そのかわりバブル経済崩壊後の後遺症もありません。仲介しかできません。売りたいという売主と、買いたいという買主のベストカップルをひたすら捜すのが仕事ですが、最近嬉しいことが続いています。
 高松市のダウンタウン扇町に、戦前からの住宅がありました。持主は90歳を超えた奥様で、自分の身の回りの世話を第三者に頼む状態になっています。
 これを35歳くらいの若夫婦が購入することになったのですが、建物が非常に良いのでリフォームしてそのまま使うというのです。外観は漆喰の壁に、松の樹が玄関をもり立てている風情は、壊すのには若干の躊躇をするとは思っていましたが、そのまま使うとは思ってもいませんでした。柱と壁の隙間を「ちり」と言いますが、狂いが一切ありません。建物は確かに良いものです。でも今風ではありません。第一駐車場がありません。その家は、道路一杯に建っていて、逆に北側が30坪ほど畑にしています。奥様が古民家の趣味があるそうですが、趣味で暮らしが出来るわけでもありません。
 また過日、ご夫婦と男子一人のご家族が、13年前に新築した住宅を売却されました。購入価格を下回っての売却です。特に奥様の注文で、当初予算を大きく上回り、おまけに地価の下落の影響をもろに受けた格好です。購入したのは、奥様と高校生のお嬢さん。特にお嬢さんが台所等を気に入られて、この家でなければイヤだと言って買い受けました。すると売主の奥様が喜んで、「私の気持ちをわかってくれる親子」と絶賛されて、商談が美しく進みました。
 この家業で、交渉が「美しく」運ぶことは、残念ながら余りありません。互いに悪いところを強調し合う「値交渉」が限りなく続くのですが、家を愛でて、買って貰える契約の場に臨席できるのは、本当に嬉しい極楽浄土です。